夢の内容を忘れてしまうのはなぜ? ー山中章弘研究室

名古屋大学 環境医学研究所 ストレス受容・応答研究部門 神経系分野Ⅱ、山中 章弘教授の研究を紹介します。
http://www.riem.nagoya-u.ac.jp/4/drof1/nr/index.html





睡眠の仕組み

私たちは毎日当たり前のように、寝て、起きて、を繰り返します。

睡眠は、本能行動の一つ。

そのメカニズムについてはまだ分からないことがたくさんありますが、
睡眠の調節には、脳にある神経が大きく関わっていると言われています。

寝ている時、私たちの体は「ノンレム睡眠」「レム睡眠」という2つの状態を繰り返しています。

ノンレム睡眠は、脳が休んでいる状態。
一方で、レム睡眠は、脳が活動している状態です。

寝ているのに脳が活動しているとはなんとも不思議ですが、
レム睡眠の時に、私たちは夢を見ているのです。

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図1 睡眠時は、ノンレム睡眠とレム睡眠を繰り返している。

でも、「今日はどんな夢を見た?」と聞かれて、すぐに答えられるでしょうか?

はっきりと答えられる人は少ないでしょう。
どうやら、夢を消去する仕組みが私たちには備わっているようなのです。

研究テーマ:「眠る」「起きる」を調節する仕組みについて

山中研究室では、神経がどのように本能行動を制御しているのかに注目した研究を行っています。

本能行動の中でも、特に眠ったり起きたりという「睡眠覚醒」の仕組みについては、詳しいことはまだよく分かっていません。

山中教授らは、
・「眠る」「起きる」はどのように制御されているのか?
・夢の記憶が消去される仕組みは?
などについて、マウスをモデルに用いて解析しています。

「光遺伝学」という、光を使って神経を動かす手法を使用していることが特徴です。

これらの研究から、睡眠の詳しい仕組みが明らかにされつつあります。

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図2 睡眠の詳しい仕組みについては、まだ不明な点が多い。





さらに詳しく!

「眠る」「起きる」はどのように制御されているのか?

「睡眠」と「覚醒」の調節には、視床下部と呼ばれる神経がたくさん集まった脳の領域が機能していると言われています。

しかし、睡眠と覚醒の切り替えなど、調節する仕組みは解明されていません。

山中教授らの解析により、脳の視床下部にある「オレキシン神経細胞」が睡眠・覚醒の調節に機能していることが分かりました

現在もさらなる解析が行われており、今後、睡眠・覚醒調節機構を行なう神経回路の詳細が明らかになっていくでしょう。

夢の記憶が消去される仕組みは?

私たちは毎晩、浅い眠りの時に夢を見ているはずです。
なのに、その記憶は、どうして起きた時には消去されているのでしょうか?

このことについて山中教授らは、
脳の視床下部にある「MCH(メラニン凝集ホルモン)神経」に注目した解析を行なっています。

山中教授らの解析により、
MCH神経を活性化すると、記憶のために重要な海馬が制御され、記憶消去を引き起こすことが分かりました。
逆に、MCH神経を抑制した場合は、記憶が定着したそうです。

これらは、MCH神経が、レム睡眠中の記憶を消去していることを意味しています。

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図3 MCH神経が、夢の記憶を消去する。





睡眠・覚醒のメカニズムが解明されていくことで、
ナルコレプシー(突然眠ってしまう病気)など、睡眠障害の原因解明や治療につながることでしょう。

また、夢の記憶が消去される仕組みが分かれば、PTSDの治療に役立つ可能性もあるそうです。

夢をすぐに忘れてしまうのは、
夢で見たことを、現実世界でトラウマにしないための防御策かもしれませんね。

そうなると、じゃあなぜ夢をみるの?という疑問が浮かびますが…。

毎日繰り返している睡眠なのに、不思議がまだまだいっぱいですね。


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山中 章弘研究室
名古屋大学 環境医学研究所 ストレス受容・応答研究部門 神経系分野Ⅱ
http://www.riem.nagoya-u.ac.jp/4/drof1/nr/index.html