私たちはどうやって「見て」いるのだろう? ー古川貴久研究室

大阪大学 蛋白質研究所 蛋白質高次機能学研究部門 分子発生学研究室、古川 貴久教授の研究を紹介します。
http://www.protein.osaka-u.ac.jp/furukawa_lab/index.html





ものを見るために働く視細胞

私たちは、どうやってものを見ているのでしょうか?

「ものが見える」過程は、実に複雑です。
でもその始まりは、眼球の裏側にある「網膜」からスタートします。

網膜には、「視細胞」という光を受け取る神経細胞があります。

神経細胞は、さらに別の神経細胞とつながっており、そのつなぎ目は「シナプス」と呼ばれます。

視細胞が受け取った光は、シナプスを通じて、さらに別の神経細胞へと情報として伝わっていくのです。

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図1 「ものが見える」ことは、視細胞が光を受け取ることから始まる。

ものが見えるためには、ある程度の光が必要で、
かつ、その光を視細胞が受け取らなければなりません。

しかし、実は視細胞は光でダメージを受けてしまいます。
通常の生活の中でも、ゆっくりとダメージを受けているんです。

「太陽を直接見ちゃダメ!」と言われますよね。
あれは、光で視細胞がやられてしまい、失明するおそれがあるから。

このダメージを防ぐシステムのひとつに、「明暗順応」があります。

周りの明るさに応じて、視細胞自らが光に対する感度を調節しているのです。

急に暗いトンネルに入ったり、太陽がまぶしい外に出たりした時にも、
だんだんと周りの景色が見えてくるのは、この明暗順応のおかげなんですね。

詳しい仕組みについては、まだ分かっていない部分がありますが、
このシステムのおかげで、視細胞のダメージが抑えられ、
明るいところや暗いところでも、ものを見ることができるのです。




研究テーマ:網膜の形成過程や機能について

古川研究室では、遺伝子情報が神経機能へ、どうつながっているのかに注目した研究を行っています。

神経の中でも、特に注目しているのが網膜。

実際のところ、視神経がどうやってできあがっていくのかなど、詳しいことはよく分かっていません。

古川教授らは、
・視神経のシナプスがどうやって作られるのか?
・明暗順応が起きる仕組みは?
などの解析を行っています。

遺伝子を思い通りに操作した「遺伝子改変マウス」の作製を得意としていることが、特徴のひとつです。

これらの研究から、視覚に大事な網膜が形成される仕組みや機能が明らかにされつつあります。

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図2 「見る」ために大事な網膜の仕組み・機能とは?





さらに詳しく!

視神経のシナプスがどうやって作られるのか?

私たちのからだでは、たくさんの神経細胞が連なり、外からの刺激などの情報を伝達しています。
外部から情報を受け取ったら、それを伝えていかなくてはならないのです。

つまり、神経細胞のつなぎ目である「シナプス」は、情報を伝達するために重要な部分。

しかし、網膜のシナプス形成過程については、不明な点がまだ残っています。

古川教授らは、
視細胞シナプスに関わるタンパク質として、ピカチュリン(Pikachurin)を発見しました。

ピカチュリンは視細胞のシナプスに存在しており、
ピカチュリンがないと、視覚に障害が出てしまうそうです。

これらは、ピカチュリンタンパク質がシナプス形成に重要な働きをしていることを意味しています。

明暗順応が起きる仕組みは?

明るいところや暗いところで目が慣れてくる明暗順応は、生活に欠かせない仕組みです。

その詳しい仕組みは、一体どうなっているのでしょうか?

明暗順応には、視細胞中にある2つのタンパク質が機能していることが知られていました。
トランスデューシンUnc119です。

トランスデューシンは、光情報を伝えるタンパク質。
Unc119は、トランスデューシンとくっつき、適切な場所へと移動させるタンパク質です。

視細胞の光感度の変化には、Unc119量の変化が関係していることは分かっていたのですが、
どうやってその量が変化しているのかが不明でした。

古川教授らの解析により、Klhl18という酵素が、光強度に応じたUnc119分解に関わっていることが分かりました。

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図3 明暗順応の詳しい仕組みが解明された。

この解析で、明暗順応のより詳細な仕組みが解明されたと言えます。


冒頭でも述べた通り、明暗順応システムは視細胞をダメージから守るもの。
このシステムの解明は、視細胞が障害を受けることで起きる病気(加齢黄斑変性、網膜変性疾患など)の治療にもつながる可能性を秘めているそうです。

古川研究室では他にも、
視細胞が分化する仕組みや、網膜神経回路が構築される過程などの解析が行われています。

普段、特に意識することなく「ものを見ている」私たちですが、
実はとても複雑な仕組みが働いているのですね。

「ピカチュリン」と聞いて感じた方もいるかもしれませんが、
古川教授は、新しく発見したタンパク質のネーミングにもこだわっているそうです。
おそらく黄色いあのキャラクターかな、と個人的に推察しています。

発見者が好きな名前を付けられるのも、サイエンスの醍醐味の一つ。

将来、なにか新しい発見をしたら、あなたも好きな名前を付けられるかもしれませんね。


本記事で紹介した研究室の詳細はこちら

古川 貴久研究室
大阪大学 蛋白質研究所 蛋白質高次機能学研究部門 分子発生学研究室
http://www.protein.osaka-u.ac.jp/furukawa_lab/index.html