植物は遺伝情報(DNA)を分解して、栄養分として利用している ー坂本亘研究室

岡山大学 資源植物科学研究所 光環境適応研究グループ、坂本 亘教授の研究を紹介します。
http://www.rib.okayama-u.ac.jp/saka/


葉緑体とミトコンドリアは、エネルギーを作る場

植物は、一度根ざしてしまうと、その場所から動くことができません。
つまり、その場で生きるためのエネルギーを作り出す必要があります。

そのために植物は、私たち動物が持っていない、特殊な装置を細胞内に持っています。
植物にとっての大切なエネルギー源は、太陽の光。
光からエネルギーを作り出すことを「光合成」と言い、
光合成するための「葉緑体」という装置を持っているのです。

また、「ミトコンドリア」もエネルギーを生み出す装置です。
こちらは動物細胞にもある装置です。

すべての細胞は、遺伝情報としてゲノムDNAを持っていますが、
それに加えて、これら葉緑体とミトコンドリアは、「オルガネラDNA」を持っています。
2種類の遺伝情報(DNA)を持っているということですね。

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図1 エネルギーを作る場所・葉緑体とミトコンドリアは、独自のDNAを持つ。

実は葉緑体とミトコンドリアは、その昔、独自のDNAをもつ細菌が真核細胞に入ってできた細胞小器官だと言われています。
つまり、オルガネラDNAは、細菌が元々持っていたDNAだと言うことです。

しかし、不要であれば、真核細胞はオルガネラDNAを早々に捨ててしまいそうなもの。
なぜ葉緑体やミトコンドリアがオルガネラDNAを捨てずに持ち続けているのかは、分かっていません。

研究テーマ:葉緑体の詳しい働きについて

坂本研究室では、葉緑体の機能に注目した研究を行っています。

エネルギー合成の場である葉緑体ですが、
その発達過程や周りの環境への対応など、まだまだ分かっていないことがたくさんあります。
また、葉緑体で行われる光合成システムの全貌も明らかになっていません。

坂本教授らは、
・オルガネラDNAは何のために存在しているのか?
・環境の変化(強力な光など)にどうやって対応しているか?
・常に光合成できて枯れない「葉緑体強化植物」の作出
などの解析を、シロイヌナズナ・イネ・タバコ等の植物を用いて行なっています。

これらの研究から、オルガネラDNAの存在意義や、葉緑体が作られる過程・機能の詳細が明らかにされつつあります。

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図2 葉緑体の機能など、まだ分かっていないことがたくさんある。

さらに詳しく!

オルガネラDNAは何のために存在しているのか?

冒頭にも触れましたが、葉緑体やミトコンドリアは、
ゲノムDNAとオルガネラDNAという、2種類のDNAを持っています。

オルガネラDNAも、一部は遺伝情報として機能しているのですが、
遺伝情報にしては量が多すぎるのではないかという疑問がありました。

一体、何のためにオルガネラDNAは存在しているのでしょうか?

坂本教授らの解析により、
植物の3大栄養素のひとつ・リンが少ない環境になると、
葉のミトコンドリアのオルガネラDNAが、DPD1ヌクレアーゼによって分解されることが分かりました。
そして、分解によって生じたリンは、栄養分として再利用されていたのです。

植物の葉は老化すると落葉しますが、その時にも同じことが起きているそうです。

これらは、オルガネラDNAが分解されて、リン栄養分として利用されていることを意味しています。

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図3 オルガネラDNAは、分解されて栄養分として利用される。

強力な光にどうやって対応しているか?

植物は動物のように移動できないため、その場の環境に対応する能力が求められます。

植物にとって必要不可欠な光ですが、強すぎる場合もあります。
強すぎると、光からエネルギーを作り出す葉緑体システムの一部が壊れてしまうことも。

では、植物は強すぎる光にどのように対抗しているのでしょうか?

坂本教授らの解析により、
葉緑体の中で、強い光により壊れやすい部分では、プロテアーゼというタンパク質を分解する酵素が働いていることが分かっています。
分解されたタンパク質は、新しく作り直されるそうです。

つまり、壊れてしまったシステムの一部を除去し、新しいものに入れ替えるメンテナンス機構が存在する、ということですね。

現在も、この修復システムについて、さらに詳しい解析が行われています。

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図4 環境変化に応じるため、葉緑体タンパク質のメンテナンス機構が存在する。

生物にとって、遺伝情報は体をつくる大切な設計図。

そのため、植物が遺伝情報でもあるオルガネラDNAを分解して、栄養分として利用しているとは、驚きです。

一見すると、遺伝情報を失ってしまう恐れのある危ないシステムですが、
細胞内の資源をうまく利用する仕組みなのかもしれませんね。

葉緑体・ミトコンドリアが真核細胞に共生したのは、大昔のこと。
つまり、長いこと2種類のDNAを持つ細胞小器官を持ち続けていることになります。

一体、いつからオルガネラDNAを栄養分として利用するシステムを獲得したのか、
このシステムが植物細胞独自のものなのか、などと気になることがまだまだたくさん。

植物は移動することができないおかげで、動物が持っていないシステムや機能をたくさん持っています。
そんなシステムが、今後明らかになっていくのが楽しみですね。


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坂本 亘研究室
岡山大学 資源植物科学研究所 光環境適応研究グループ
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