どうしてアレルギーで目がかゆくなるのか? ー平原潔研究室

千葉大学大学院医学研究院 免疫発生学、平原 潔教授の研究を紹介します。https://www.m.chiba-u.jp/dept/meneki/


免疫反応とアレルギー

今年の花粉症も凄かったですね。
やっと解放された…という方も多いことでしょう。
一年を通じて、アレルギーによる鼻水や目のかゆみに悩まされる方も多く、飲み薬や目薬で対処している方も多いでしょう。
では、どのようにしてアレルギー症状が出るのか知っていますか?

花粉症等のアレルギーは、私たちの体が免疫反応を起こすことによって起きます。
通常であれば、免疫システムは異物(ウイルスなど)に対抗・排除するためのものなので、健康を保つためには欠かせないシステムです。
しかし、アレルゲンが過剰になったり、免疫力が低下するなどして、免疫システムが破綻してしまうことがあります。
この破綻が、アレルギー反応へとつながるのです。
つまり、免疫システムは異物に対しては有効であるものの、場合によっては悪さをすることもあるということですね。


図1. 体を守る免疫システムが悪さをすることがある
図1. 体を守る免疫システムが悪さをすることがある

アレルギーによる症状は、鼻水やくしゃみ、目のかゆみ等様々あります。
これらの症状が起きるメカニズムについては、まだ分かっていないことが多いのです。

研究テーマ:免疫システム関連の疾患について

平原研究室では、免疫システムが引き起こす疾患に注目した研究を行っています。
先程の花粉症をはじめ、免疫システムが関与する疾患(免疫疾患)は他にもたくさんあります。
しかし、それらの多くが、どのようにして引き起こされるのか、詳しいことはまだよく分かっていません。
平原教授らは、
・どのように免疫疾患が引き起こされるのか?
・免疫システムと生体システム(神経系など)の関係性は?
などの解析を行っています。
これらの研究から、免疫疾患が引き起こされる過程が明らかにされつつあります。


図2. 免疫システムは疾患および生体システムにどう関係しているのか?
図2. 免疫システムは疾患および生体システムにどう関係しているのか?

さらに詳しく!

どのように免疫疾患が引き起こされるのか?

これまで平原教授らは、特に肺などの呼吸器で起きる免疫疾患について、詳細を調べてきました。
具体的には、
・1細胞の中でどんな遺伝子が発現しているか(single cell RNA-Seq)
・1細胞の中で遺伝子にどのような修飾が入っているか(single cell epigenomic-Seq)
・顕微鏡でのイメージング
などを組み合わせた解析が行われているようです。


図3. 呼吸器における免疫疾患のメカニズムが明らかになった
図3. 呼吸器における免疫疾患のメカニズムが明らかになった

1つの細胞における遺伝子の状態が調べられるとは、生物学研究に馴染みのない方にとっては驚きかもしれませんね。
詳しいことは少し難しくなるので割愛しますが、平原教授らの解析により、呼吸器において免疫疾患が重症化するときのメカニズムが明らかになりました。
詳しい因子名等を知りたい場合は、以下を参考にどうぞ。
→ https://www.m.chiba-u.jp/dept/meneki/about-1/

今後、呼吸器以外にも、様々な臓器における免疫疾患のメカニズム解明に取り組んでいくようです。

免疫システムと生体システム(神経系など)の関係性は?

免疫システムは、外敵から体を守るシステムですから、他の生体システムと連動して働いていることが推察されます。
しかし、実際の関係性は分かっていませんでした。
そこで、平原教授らにより、免疫システムと神経システムの関係性に着目した解析が行われ、免疫システムで働く因子(IL-33)が、神経システムに作用して目のかゆみを引き起こすことが分かりました。


図4. アレルギーによって目のかゆみが生じるメカニズムが明らかになった
図4. アレルギーによって目のかゆみが生じるメカニズムが明らかになった

これは、冒頭で取り上げた、花粉症などのアレルギーによって目のかゆみが発生する原因を突き止めた、ということを意味します。
今後、これらのタンパク質をターゲットとした治療薬の開発につながることでしょう。
また、神経以外の他のシステムと免疫システムの関係性も明らかになっていくと思われます。

参考文献:

Okano M, et al. Interleukin-33-activated neuropeptide CGRP-producing memory Th2 cells cooperate with somatosensory neurons to induce conjunctival itch. Immunity 55(12):2352-2368.e7 (2022).
https://www.chiba-u.ac.jp/others/topics/info/post_1108.html


普段は体を守るべく働く免疫システムが、アレルギーをはじめとする様々な疾患を引き起こしているとは、驚きですよね。
免疫システムと生体システムの関係性、そして疾患が起きる分子メカニズムが明らかにされていくことで、免疫疾患の全体像が解明されていくでしょう

また、このほか、平原研究室では新型コロナの重症化リスクについての研究も行なわれています。
疾患には必ず関与する免疫システムですから、今後の研究で、一つでも多くの疾患の原因解明に繋がることを願うばかりです。


本記事で紹介した研究室の詳細はこちら

平原 潔 研究室
千葉大学大学院医学研究院 免疫発生学
https://www.m.chiba-u.jp/dept/meneki/