金属を体内に貯めるホヤ ー情報生理学研究室

広島大学大学院 情報生理学研究室、植木 龍也准教授の研究を紹介します。
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ホヤってどんな生き物?

ホヤという生物を知っていますか?
もしかしたら、東北地方に住んでいる人などは、食べたこともあるかもしれませんね。

見た目は貝のようですが、ヒトと同じ「脊索動物」に分類される生き物です。
そのため、生物学の研究で研究材料としてよく使われます。

卵から孵った時はオタマジャクシ型、成体になると岩にくっついて生活します。

生息場所は、浅い海。
入水孔と呼ばれる穴から海水を取り込み、植物プランクトンなどを食べて生きる生物です。

ホヤは、いくつかの面白い特徴を持つ生物です。

その一つに、「バナジウム」という金属を体内に高い濃度で蓄積している、という特徴があります。

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図1 ホヤは、バナジウムを体内に貯めている生物。

その濃度は、海水と比べて、なんと1000万倍。
体内では、血球の一種であるバナドサイトと呼ばれる場所に貯められています。

こんなにも高濃度でバナジウムを体内に貯めている生物は、他にはいません。

バナジウムは、ヒトでは鉄などと比べると低濃度とは言え、生物に欠かせない金属(生体必須元素)の一つです。

また、工業的にも高い価値のある金属と言われています。

研究テーマ:ホヤ体内にバナジウムが蓄積する仕組みについて

情報生理学研究室では、ホヤがどのようにして、また、何のためにバナジウムを体内に蓄積しているのかに注目した研究を行っています。

体内にたくさんのバナジウムを溜め込んでいるホヤですが、
どうやって高濃度に蓄積させているのか、詳しいことはまだよく分かっていません。

また、バナジウムは、何のためにたくさん蓄えられているのでしょうか?
「生物にとって欠かせない酸化還元などのシステムに関わっているのでは?」
「岩にくっつく時に働いているのでは?」
などと推測されていますが、はっきりした理由は示されていません。

情報生理学研究室の植木准教授らは、
・どんなシステムでバナジウムは蓄積されるのか?
・バナジウムは体内で何をしているのか?
・ホヤのバナジウム蓄積システムを工業的に利用する方法の開発
などの解析を行っています。

これらの研究から、ホヤが、イオンの移動や腸内細菌などの働きによって、バナジウムを体内に濃縮する仕組みが明らかにされつつあります。

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図2 イオン移動や腸内細菌の働きで、バナジウムがホヤ体内に濃縮される。




さらに詳しく!

バナジウムはどうやって濃縮されているのか?

バナジウムは、バナドサイトと呼ばれる血球細胞の、液胞という場所に蓄積されています。
液胞には、硫酸イオン、プロトンも蓄積しています。

植木准教授らのこれらのイオンに注目した解析により、
硫酸イオンは、バナジウムイオンと一緒に液胞内へと運ばれること
一方で、液胞内に溜まったプロトンが液胞外に運ばれることが、バナジウムイオンの液胞内への移動を動かすことが分かりました。

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図3 バナジウムの蓄積には、イオンの移動が大事。

液胞内外へとそれぞれのイオンを運ぶタンパク質も明らかになっています。

これらは、バナジウムイオン・硫酸イオン・プロトンという3つのイオンが同時に運ばれることが、バナジウムの高濃度蓄積につながることを意味しています。

また、ホヤの腸内細菌には、バナジウムに耐性を持つ細菌がいることが分かっ多そうです。
これらの細菌が、濃縮に関係している可能性もあるようです。

バナジウムは生体内で何をしているのか?

では、ホヤ体内に高濃度に蓄積されたバナジウムは何をしているのでしょうか?

植木准教授らの解析により、バナジウムに結合しているタンパク質がいくつか見つかっています
例えば、スジキレボヤにおいては、VanabinやVBPというタンパク質がバナジウムに結合していることが分かりました。

またVanabinは、タンパク質に金属を取り込ませるメタロシャペロンやバナジウム還元酵素として働くこと、バナジウムの輸送に関与していることなどが明らかになっています

まだ機能は分かりませんが、Vanabinと相互作用するタンパク質(VIP1)なども発見されています。

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図4 バナジウムには、Vanabinタンパク質が結合している。

今後、バナジウム結合タンパク質Vanabin、VBPや、Vanabin相互作用タンパク質VIP1などの詳しい解析を通して、バナジウムの生体内での機能が明らかになっていくでしょう。

ホヤのバナジウム蓄積システムを工業的利用する方法の開発

ホヤでのバナジウムを蓄積するシステムを明らかにすることで、工業に利用できる可能性も出てきています。

植木准教授らは、ホヤのVanabinタンパク質を大腸菌で発現させた時の変化を解析しています。
その結果、通常と比較して約20倍の銅、2倍のバナジウムが大腸菌の体内に濃縮されることが分かりました

Vanabinタンパク質があることで、大腸菌でもバナジウムを蓄積できるようになったということですね。

また他にも、ホヤが岩にくっつくために必要な因子の探索も行なっているそうです。

これらの研究が進むことで、目的の金属を効率的に回収する技術や、新しい接着物質の発見につながるかもしれません。





見た目から不思議なホヤですが、バナジウムを溜め込む仕組みを知っていくと、さらに面白さが見えてきます。

工業的にも有用な特徴をもっている生物なので、これからの詳細な研究が楽しみですね。


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情報生理学研究室
広島大学大学院 統合生命科学研究科 基礎生物学プログラム
広島大学大学院 理学研究科 生物化学専攻
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